塵積む者のマネーブログ

資産運用で、もがき楽しむ日々をブログに綴っています。 米国株・日本株や投資信託への投資、株主優待の取得をコツコツと行いながら、少しずつ山を築いていきます。


メルカリ上場を短編小説化! 証券トレーダー中沢の出した決断とは?!

メルカリ(4385)の初値は5,000円を付け、公開価格に対して66.7%高と好調発信でした。

 

今回は個人投資家へも広く配分されていたので、皆さんの財布が潤い、株式市場にも良い影響になったと思います。

 

(上場2日目は4,910円(▲390円、▲7.36%)と売られてますが。。)

 

というわけで、メルカリの好調な出発を記念して、当日の様子を小説タッチで書いてみたいと思います。

 

※完全にフィクションです。登場人物・団体等は管理人とは何も関係ありませんw

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<目次>

 

 

 

プロローグ ~決戦前夜~

「理論上の収益で浮かれるなよ。すべてのポジションは、『マネタイズしてなんぼ』だ」

メタルフレームの眼鏡の下の竜神の目が一瞬凄みを帯びた。

 黒木亮 著 「巨大投資銀行(バルジブラケット)」より

 

「そんなに飲んで大丈夫? 明日は大切な日なんじゃないの? 」

 

マホガニーのカウンターの上には、ダウンライトに照らされ滑らかな光を放つ「オーバン14年」がそっと差し出されている。

 

男は、リーデルのスコッチグラスをやさしく手にすると、かすかに鼻孔をしびれさせるまろやかな香りを楽しんでから、そっと口に含んだ。

チョコレートにも通じるビターな甘みをゆっくりと堪能する。

 

バックバーの一点を見つめながら、女の問いに対して静かに口をあける。

 

「俺のやるべきことは、もうすべて決めてある」

 

男の眼は熱を帯びている。

 

だが、それ以上に深く澄んでいた。

 

すべてが変わる日

6:15

「ケンジ!今日は一段と早いな!」
 
中沢健二が、ガラスで仕切られた自分の部屋でウォール・ストリート・ジャーナルに目を通していたところ、同僚のジェフに声をかけられた。
 
「しらじらしいな、ジェフ。お前の方こそ、いても立ってもいられない雰囲気じゃないか」
 
「冗談だ。今日の主役のメルカリだが、グレーマーケットでの引き合いも良かったし、この分だと今日はいい1日になりそうだな」
 
「ああ。米中貿易摩擦の影響で、今日の東京マーケットは全面的に売られるだろうが、メルカリの需給にはほとんど影響はないだろう」
 
中沢は、毎朝6時半には出社し、日経新聞やウォールストリートジャーナルをはじめとする一般紙やロイターなどに目を通しつつ、昨晩の米国市場や為替動向のチェックも欠かさない。

 

また、年間購読料が数百万円にものぼる特別会員向けのレポートによって「生きている」情報を手に入れている。
 
「パラシュートを付けないで飛ぶ奴がいるか? 情報をきちんと身につけていない奴は、ただ落ちるだけだ」が中沢の口癖である。
 

昨日のどんよりとした曇り空とは打って変わって、フロアには気持ちのよい初夏の朝日が差し込んでいる。


今日の中沢は、いつもより早く5時半にはオフィスにいた。

メルカリの上場当日における自分のシナリオの最終点検を行うためである。

 

中沢の眼には、昨夜のアルコールなどみじんも残っていない。すべて蒸発しているようだった。

 

 

 

8:00

8時を告げると同時に、モニターに表示されたメルカリの板が一瞬のうちに数字で埋め尽くされた。
 
「4,500円か~、あんまり高く寄らないんですかね~」
 
ジェフからボーイ(少年)と呼ばれている岸正明が独り言ともつかない声でつぶやいた。
 
今年、大学を卒業したばかりの新人である。2回りも歳の違う大柄なアメリカ人のジェフからは紛れもなくボーイに見えるのだろう。
 
「この時間の板はどうとでも動く。未だ注文も少ないし気にするな」

 中沢が岸の後ろから声をかけた。
 
「あっ、中沢さん!すいません、ちょっと気になってしまったもので」

「心配しなくてもいい。これからおもしろいものが見れるぞ」

 

8:58

前場の開始まで残り2分。フロア全体がピリピリとした空気に包まれる。

 

板には次々と注文が入っている。

この時点では、成行買いが198万株に対して、成行売りが350万株、価格は4,800円を指し示している。
 
「さぁ、いよいよだ! ボーイ、気を抜くなよ」

「はい! ジェフ!」
 
今回、メルカリのトレードは中沢自らが行う。

ジェフは別の銘柄でポジションを持っているため、市場環境のチェック等で中沢のサポートを行うのは岸の役目だ。


「さぁ気合入れるぞ」
 
中沢が周りを見回しながら静かに吠えた。

 

9:00

前場が開始した。この時は機関投資家も個人投資家も関係なく、すべての投資家にとって等しく公平に訪れる。

 

東京証券取引所の売買システム「arrowhead(アローヘッド)」が注文応答時間0.5ミリ秒未満という超高速の処理速度で注文をさばいていく。

 

メルカリは予想どおり特別買い気配でスタートしている。


特別買い気配とは、株式市場において、買い注文が大量にある中で、売り注文がない場合などに、取引所が気配表示を出し、特別に呼び値の周知を図ることを言う。

メルカリの気配更新は10分ごとに150円と決められていた。

 

メルカリの発行済株式総数は135,331,322株。10分ごとに202億円ずつ時価総額が増えていく計算になる。

 

「今回のトレードで全てが変わる。マーケットも俺自身も」

中沢は確信していた。

 

決して裕福ではない家庭で育った中沢にとって、お金は命に等しかった。

稼ぐためにはどうすべきか、子供の頃からそれだけを考えて生きてきた。

逆に一つの明確な目的があったからこそ、迷うことなく最短距離で進んで来れたとも言える。

 

今回のメルカリのトレードは、中沢の集大成であり、過去から決別できるだけのパワーを持っていた。

 

 

 

 

11:01

時刻は既に11時を回ったが、まだ初値はつかない。この時、メルカリの気配値は4,800円を示していた。

 

「日経平均が22,500円を割りました! 前日比マイナス180円です!」

岸の声が中沢の耳に届く。

 

中沢自身も既にリアルタイムで確認している。

 

「今日の東京マーケットはこのまま下げ続けるはずだ」

 

素早く知り合いの証券会社のトレーダーに電話をかける。

1コールもかからず受話器から声がする。

 

「ケンジ、主幹事は意地でも5,000円を付けるぞ。相当、血眼になっている」

こちらの意図を素早く理解して適切な答えが返ってくる。


「そろそろだな」

 

受話器を置くと同時に素早くモニターを操作する。

 

中沢のモニターは6面。

各国の株価チャートに、関連銘柄の株価情報、為替動向まで一覧でき、眼の動きを最小限に抑えるよう配置されている。

 

それらの情報を一心不乱に追う中沢の後ろの空間が歪んでいるように見える。そこだけ、なぜか空気の濃度が高いのだ。

 

「すごい・・・」

 

悪鬼のごとくマーケットに向き合う中沢の横顔を見て、岸は思わず声を漏らした。

 

11:13

11時13分、フロアーは瞬間的に静寂に包まれた。

 

メルカリが初値を付けたのだった。

 

実際は1秒にも満たなかったであろう。彼らのアドレナリンは飽和状態にまで高まり、全ての事象が鈍重に流れている。

 

電撃的な反応をした岸がすかさず声を上げる。

「メルカリ、初値5,000円です!」

 

ブルームバーグのモニターにも速報が流れる。

 

世紀のIPOは5,000円という価格で世に放たれた。

 

株価は瞬間的に初値を割ったが、その後は5,200円前後で推移している。思ったより値動きが軽い。

多くの投資家が参入している証拠だろう。

 

岸は中沢の方を向いた。

心なしか先ほどまでの厳しかった表情が和らいでいるように見える。

 

ジェフが声をかけながら足早に中沢のデスクに向かう。

「ケンジ! やったな、初値5,000円だぞ! 」

 

中沢はモニターを凝視したまま、口元をにやりとゆがめる。

小さく息を吸い、ジェフを見上げた。

 

「100株を成行売りだ。ざっと20万円の儲けだ」


「すごいじゃないか、ケンジ! 」

 

「ようやくマネタイズだ。ここまでこれたのはみんなに助けられたからだ」

 

周りからも拍手がおくられる。

ジェフに肩を叩かれ祝福を受けている中沢は心の底から安堵しているのが分かる。

 

 

岸は、その姿を遠目から見ていた。

 

「100株、、、20万? 初値売り・・・? 」

 

どこかに違和感を感じていた。

しかし、その正体を特定することはできない。岸には圧倒的に経験値が不足していた。

 

だが、岸には一つだけ分かったこと、いや本能的に感じたことがある。

 

「あの人のようになりたい...。いや、ならなくてはならない」

 

岸は拍手の輪の中心に向かって、しっかりと歩を進めた。

 


fin

  

参考文献

黒木亮先生の「巨大投資銀行(バルジブラケット)」です。

私のふざけた文章で引用するのもおこがましかったのですが、紹介の意味も込めて引用させていただきました!

 

本書は、1980年代の日本が舞台で、日経先物の裁定取引で莫大な利益を上げたソロモン・ブラザーズの竜神の神がかり的なトレードにシビレます。

 

また、邦銀から外資系投資銀行のモルガン・スペンサーへ転職した桂木が、ページをめくる度に逞しくなっていくのを見ると、仕事へのやる気がわいてきますよ。

 

私が経済小説にはまったきっかけになった本です。良かったら是非!

 

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